《つづき》

セックスするつもりはなかった。

いや、するかもなぁ、するんだろうなぁ、と思いながらも

あくまでもするつもりなんてなかったのだ。

部屋に入ると、あの人は、倒れこむようにベッドに横になった。

それもそのはず。

もう時計は3時をさしていた。

そして、あの人はそのまま静かに寝息を立てた。

近くのソファに座って、あたしは、その顔を見ていた。

さっきキスをした人と同一人物とは思えないほど

寝顔は幼く、まるで小学生みたいだった。

あたしが、近くに行かなければ、きっと何も起こらない。

そう思った。

でも、やっぱり無性に横に行きたくて、

ベッドに入って、あの人に寄り添った。

こんなふうになりたいんじゃないのに。

こんなふうな関係になりたいわけじゃないのに。

違う、違う、

そう思いながらも体がいうことをきかなかった。

あの人は、起きもせず、

あたしは、そのぬくもりで一気に眠りに堕ちた。

朝方、目を覚まして、横にある顔をじっと見ると、

眠そうにゆっくりとまばたきをして、あの人があたしを見た。

そして、少し寝返りをうつようにして無言でキスをした。

何も言わないでいるあたしに

「オマエもっとこっち来いよ。」

と言って、あたしの体を自分のほうにぐっと引き寄せた。

そして急に上に覆いかぶさってきた。

まだ眠いのと、キスをたくさんされてくらりとするのとで、

わけがわからなかった。

あの人は少し息を荒くして、

あたしの体をあちこち弄った。

知らずに声が出てしまい、余計に興奮させてしまった。

あたしが喘ぐのを見て、

「かわいぃ・・・っ。たまらん・・・。」

と言って、更に激しく指でいじった。

朦朧とするあたしの耳元で

「抱きたい。」

と息を吐いた。

声が出そうになるのをこらえて、

「・・あたしのこと好きじゃないくせにっ・・・。」

あたしはいつのまにかそう口走っていた。

あの人は、もちろん冷静で、

「まぁ・・・。急に言われたからなぁ。

・・・でも、これから先、どうなるかなんてわからへんやん?

・・・それじゃあかんの?」

甘えたような声でそう言って、またあたしの服をめくりあげて、

胸に顔をうずめた。

途端にあたしは、面倒くさくなったのだ。

先のことを考えるのも、

今の状況を把握するのも、

そして、相手の気持ちを確かめるのも。

だいたい、わかってたことだ。

切実に好きだと思っているのは、あたしだけだって。

「好きだ」なんて言って欲しいんじゃなかった。

ただ、そんなこと言ってみたかった。

あたしが少しでも困らせることができるのか知りたかった。

自分がどうしたいのかなんて今、考えられない。

ただ、今は、触れていたいだけ。

近くで顔を見たいだけ。

上手に段階を踏むなんてムリ。

近くにいさせて

会わせて欲しかった。

「もうガマンできん。」

何かが切れたみたいにあの人は、そう言って

あたしの両手をベッドに押さえつけた。

抵抗するような気もさらさらなかった。



あの人は、ゆっくりベッドを離れて、

ソファに座った。

煙草に火をつけて、

「オマエはーぁ、タイミング悪すぎ。」

と言って、あたしの頭に手をのばし、煙を吐きながら笑った。

首をかしげるあたしを見て

あの人は、同じように首をかしげてマネをしてみせた。

「オレは、自己中でマイペースやから、一つのことしか考えられへん。

きっと、今付き合ったとしても、結局フってまうのは、オレやと思うし。」

あの人は、次の年の公務員試験に向けて勉強していた。

彼自身は、とてもとても「公務員」って感じではなかったけれど。

でも、真剣だった。

「今は、誰かと付き合ったりとか、そうゆう気持ちの余裕がない。」

待ってろ、なんて言われていないのに、

勝手に、言われている気分になった。

いや、そう思いこみたかっただけかもしれない。

あたしは、それにしがみついた。

あたしに喪失感を与えないで。

怖い。

現実に引き戻すようなこと言わないで。

あたしは、何も、それ以上のことを望んではいないのに。

苦しくなって、あの人のところへ行って、

後ろから首に手をまわして、抱きついた。

背中に耳をつけて、ただ、他のことを聞かないようにしていた。



                   つづく。。。。。

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